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外国法人の日本における源泉徴収義務

外国法人にも課される場合がある?


1. 日本における源泉徴収義務の規定構造

日本の源泉徴収制度は、所得税法を中心に定められています。この制度の目的は、納税者の所得から税金を源泉で徴収し、税務当局への納付を確実に行うことです。外国法人にとって重要なのは、この義務が「国内源泉所得」に関連づけられている点です。以下に、その構造を整理して説明します。

① 所得種類ごとに規定:対象となる国内源泉所得

源泉徴収の対象は、所得の種類ごとに細かく規定されています。主なものは以下の通りで、いずれも所法161条に列挙される国内源泉所得に該当します。

  • 利子所得:国内で取り扱われる預貯金・債券等の利子。例:国内金融機関の預貯金利子。
  • 配当所得:内国法人から受ける剰余金の配当、利益の分配等。
  • 給与・退職金等:日本国内で行った勤務に対応する給与・退職手当など。
  • 使用料(ロイヤルティ):特許権・著作権等の使用に係る対価。
  • 人的役務の提供対価:国内での出演・講演・専門サービス等の報酬。
  • 不動産関連:国内不動産の貸付対価や譲渡対価 など。
    (租税条約により軽減・免除されることがあります。条約適用には届出等の手続が必要です。)

② 支払相手(納税人)毎に規定:居住者・非居住者などの区分

源泉徴収義務は、支払を受ける相手(納税者)のステータスによって異なります。

  • 居住者(国内個人)・内国法人:日本居住の個人・日本法人。
  • 非居住者・外国法人:日本に住所や本店がない者。国内源泉所得に対して源泉徴収の対象となる範囲が広めに設定されています。
    非居住者・外国法人に対する国内法上の源泉税率は、原則20.42%(復興特別所得税を含む)ですが、所得の種類により15.315%などの例外もあります。条約により更に軽減・免除される場合があります。

③ 支払者(源泉徴収義務者):国内において支払をする者

源泉徴収義務を負うのは支払者です。具体的には「国内において源泉対象となる国内源泉所得の支払をする者」で、支払時に源泉徴収し支払月の翌月10日までに納付します。支払者が日本に事務所・事業所等(PE含む)を有する場合は、国外で手続した支払でも国内支払とみなされることがあります。

例えば、外国法人が日本支店を通じて日本在住のコンサルタントに報酬を支払う場合、源泉徴収義務が生じます。支払額から税金を控除し、期限内に納付する必要があります。

この構造からわかるように、源泉徴収義務は「所得の種類」「相手方の属性」、そして「支払者の日本でのプレゼンス(住所・事務所等)」により判断されることになります。外国法人が日本国内で活動していなくても、一定の条件で義務が及ぶ点に注意が必要です。


2. 外国法人の源泉徴収義務判断:国外支払いの場合の特則

外国法人が特に注意すべきは、支払いが国外で行われる場合のルールです。所法212条には次の特則があります(要旨):

国内源泉所得の支払が国外で行われても、支払者が日本に住所・居所または事務所・事業所その他これらに準ずるもの(PE等)を有する場合には、その支払を「国内で支払ったもの」とみなして源泉徴収義務が生じる。

恒久的施設(PE)の実務的判断の例

  • 固定的施設型:支店・工場・事務所等の物理的拠点。
  • 代理人PE:日本国内の代理人が契約締結権限を持つ 等。
  • 建設PE:一定期間を超える工事・建設プロジェクト 等。

判断のポイント

  • PEなし:みなし国内払の要件に該当しない限り、国外での支払について、原則として支払者側の源泉徴収義務は生じないといえます。
  • PEあり:みなし国内払が適用され、源泉徴収義務が発生すると考えられます。税率は所得種類ごとに異なり、国内法上は概ね10%~20.42%のレンジ(例外あり:15.315%等)。条約適用で軽減・免除される場合があります。

3. 日本税制の特徴:源泉徴収義務の「分断」と罰則リスク

日本では源泉徴収は支払者の独立した義務です。受取側(納税者)の申告・納付の有無に関わらず、支払者が徴収・納付を怠ると、本税部分に加えて、附帯税(不納付加算税)や延滞税が科されることになります。

従って、実務では、取引に応じて支払設計(国内/国外・支払フロー)条約適用の事前届出・証憑管理納期限(原則、翌月10日)管理を、契約段階から組み込むことが肝要です。


4. まとめ:日本の税制に十分な注意を

外国法人が日本で事業を行う際、源泉徴収義務は見過ごせないポイントです。

  • 所得の種類/相手方の属性/支払者の国内プレゼンスを軸に判定する。
  • 国外支払でも、支払者に日本の拠点(PE等)があれば「みなし国内払」となる可能性。
  • 源泉徴収は支払者の独立義務。附帯税・延滞税や刑事罰のリスクを前提に、プロセス設計と期日管理を徹底する。
  • 条約軽減・免除は原則事前届出が必要(後日の還付請求が可能な場合もあり)。

グローバル企業は、条約の適用可否や支払フローを初回支払前に専門家と確認し、コンプライアンスとコストの最適化を図りましょう。


 











KAZUHISA MOCHIZUKI 2025年8月13日
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