1. 制度背景
令和3年度税制改正により、令和4年1月4日(2022年1月4日)から、国外に住所または居所を有する納税者が、国外金融機関から送金する方法で日本の国税を直接納付できる制度が導入されました。これは従来の納税管理人制度やクレジットカード納付の制約を補う重要な新たな選択肢であり、国際税務実務にとって意義深い変化です。
2.制度概要と対象者
対象となるのは、国外(国税通則法の施行地外)に住所または居所を有する国税の納税義務者です。従来、納税の手段は納税管理人への代理納付、国内銀行口座からの振替納税、あるいはクレジットカード納付に限定されていました。
新制度では、国外金融機関などを通じて円貨建てでの直接送金納付が可能となり、納税者にとって選択肢が大幅に広がりました。
3.手続きの詳細プロセス
事前連絡段階
納付の前提として、納税者は東京国税局の「国外納付専用窓口」に電話連絡します。この際、振込先情報、納付額、所轄税務署、税目、手順、注意点などの詳細な案内を受けます。受付時間は日本時間8:30~17:00(土日祝日を除く)です。
送金実行段階
指定された納付日に、国外金融機関を通じて円貨で送金を行います。送金にかかるすべての手数料は納付者(依頼人)の負担であり、国税庁などは一切負担しません。
書類提出段階
納付後は「納付書」と「送金明細書」(国外営業所経由送金の証明書)を電子メールなどで提出します。その後、税務署から領収証書が国際郵便で送付され、届くまでに概ね2~3週間かかることがあります。
4.実務上の注意点と課題
利用可能税目と制限事項
ほぼすべての税目で利用可能ですが、源泉所得税(所得税徴収高計算書による納付)や印紙を貼付して納付する税目は対象外となります。これは技術的な制約によるものです。
手数料負担の重要性
送金に際しては、国外送金元の金融機関と、日本の受領銀行の両方の手数料負担が必要です。日本側の銀行手数料は概ね3,000円程度とされています。送金前に国外営業所での手数料総額を確認し、全額を依頼人負担とすることを確実に伝えておくことが肝要です。
資金決済サービス(Wise等)の制限
Wise、WorldFirst、PayForexなどの非銀行資金決済サービスを用いた送金は、国税局により受領が拒否されることがあり、返金手続きが困難になる可能性があります。国税庁の公式サイトでも明示されていないため、実務上の慎重な判断が求められます。
言語対応の制約
東京国税局との電話・メールは日本語での対応が基本です。そのため、日本語に不慣れな納税者には手続きが煩雑に感じられる可能性があります。
他の納付方法との比較検討
国外居住者には、以下のような選択肢があります:
- クレジットカード納付(1回あたり1,000万円未満対応)要手数料加算
- ダイレクト納付やインターネットバンキング 日本国内における口座必要
- 納税管理人による代理納付
現実的には、第三者による代理納付(納税管理人)や、手続きが簡易で英語にも対応するクレジットカード納付が推奨される場合が多いようです。